2011年11月12日

認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(4)

前頭連合野と心的イメージ

そもそも脳の連合野とはどんな働きをしているところなのでしょうか?(<附>イラスト 大脳皮質連合野の働き)
たとえば前頭連合野は「心の座」であると言われるように、連合野の活動と心の動きは密接なかかわりを持っています。
いかなる運動や動作にも、いかなる言葉にも、いくつかのイメージ(「心的イメージ」「動作イメージ」「運動イメージ」などと呼ばれます)が伴います。
私たちの活動すべてに脳内イメージが伴うのでどこから説明すればよいのか難しいですが、例えば、講演会に出席して資料と一緒にいただいた、ペンとレポートパッドを使ってメモを取ろうとする時の脳の活動についてお話します。目の前のペンもレポートパッドも始めて見るものというわけです。
まずペンを見たときにそのペンの形からどんな仕組みなのかを過去の記憶と照らし合わせてイメージするところから始まります。3色ボールペン、このペンの外観は好みじゃないけどまあいいか、ノックしてペン先を出し入れする仕組み、ノックするところを変えると色も変えられる、プラスチック製だから重くなさそうだ、ペンを持つには指でつまんで持ち上げる、ノックを押すのは親指で、黒を使うなら黒のノックを、字を書くためには親指と人差し指の間に持ち替えて中指を添えて、字を書くにはどのくらいの筆圧を加えて、でも書くのは面倒くさいな・・・これらは無数の記憶や情報を基に脳のワーキングメモリーというところで行っていることを文章にしただけで私たちはいちいちこんな情景を思考しているわけではありません。「ペンを持って字を書く準備をする」という動作の手順とその時の指や手の動きに必要な細かい計算を脳は行っていると想像してみてください。私たちがペンを持って書く準備を実際に行う前にこうした脳内イメージが作られているのです。この中で、このペンは好みじゃないとか、書くのは面倒とか、言っていますが、これも呟きではなく、心のイメージなのです。この人は、多分この後メモは進まないでしょう。
ペンを持って字を書くという動作だけでもその時の脳内イメージを文章にするとこれだけだらだらと長くなります。実際にはもっと緻密で複雑な工程があるのですが。
実はこうした文章を作り皆さんに説明すること自体にも絶え間なく脳内イメージが作られては修正され、それが繰り返されているのです。そこにはもちろん結果予測も含まれます。この言葉の使い方で次の文章にうまくつながるか、すでに次の文章を予測しながら言葉を選んでいます。前の文章を忘れては、次の文章は意味不明の文章になってしまいます。やさしい文体に統一されているかも考えなければなりません。話すときにはまた違ったイメージも作られます。話しながら皆さんの顔色をうかがっています。あくびをしている人がいれば、少し声のトーンを上げます。ちんぷんかんぷんな顔をしていれば、動揺が出て言葉に詰まります。つまり、心の動きが次の動作に影響を与えますし、その時に得た心の情報は将来の動作の参考に蓄積されます。
もちろん言語からもイメージは創り出されます。イメージは感覚情報、運動情報、そして3次元的な空間情報などを組み合わせてその都度作り出されるものです。たとえば、「りんご」のイメージはみな同じ形を最初にイメージします。これは「視覚イメージ」といわれるもので、りんごとはこういうものという知識にあたる部分です。この時にイメージされるリンゴは単なる線ではなく、多くは赤い色のついた、立体の物体になっているはずです。なぜなら自然界に輪郭だけの透明のりんごも平面のりんごも存在しないからです。つまり、人の脳は、知識や経験に見合ったりんごを最初に作り上げ、「青」と言われれば青に変化させ、半分といわれれば半分に切ったリンゴのイメージに修正する作業を行っているのです。さらに、赤いりんごということばから「おいしそうな」りんごが、青いりんごといえば「酸っぱそうな」りんごがイメージされるように、心的イメージもそこに含むことができます。
そしてそのイメージは個々の経験によって全く違うこともときにあります。りんごの「味」や「色」についてのイメージもそのひとつです。先ほど「青いりんごは酸っぱい」と述べましたが、青いのに甘いりんごに出会うと、青いりんご=酸っぱいりんごではないということに気づきます。こうして、青いりんごは一般的には酸っぱいと感じるが、必ずしも酸っぱくはないという知識の修正が行われ、「青いけどおいしかった」という感動もそのとき記憶されます。
私たちは、あらゆる体験の中にそのときの運動情報や知覚情報に加えて、イメージも情報として蓄え、たくさんの経験からそれらの情報を分類処理して社会に適応して生きてきたのです。
そして、この蓄えられたイメージが運動や言葉を表現するときにも重要な役割を果たしているのです。
このように、私たちの言動は、まず、前頭連合野で運動のプロセスをイメージ(運動イメージ)してその情報に照らし合わせて筋肉や関節の動きを調整して運動しています。最近の認知神経科学の研究では、こうした脳の活動は、実際に運動を起こせなくても、イメージの中ですでに脳の活動は遂行しているというのです。この説明はなんとなく判るような気がします。たとえば、ピアニストであれば、目の前に置かれた譜面を見ただけで、ピアノがなくても空でピアノを演奏することができるでしょう。たとえ、そのときに手を抑制されていたとしても脳の活動は変わらないと想像できます。また、壁に釘を打つよう指示されたときも、日曜大工をしたことのある人なら、道具を手にする前から自然とイメージの中で壁に釘を打ち付けているだろうと思います。
これらのイメージ訓練による脳の活性化には、経験や記憶といったものが必要になります。一度も金槌を持ったことのない人、ピアノを弾いたことのない人では、たぶん、ピアノの演奏会風景や大工さんの仕事場などをイメージするにとどまります。このイメージはいわば想像であり、運動や知覚にかかわる脳の領域は活性化されません。<附>イラスト 大脳皮質連合野の働き

大脳皮質連合野.jpg







眼窩回、ブローカ野は前頭連合野に、ウェルニッケ野は側頭連合野に含まれる。また、ブローカ野とウェルニッケ野は言語中枢である。前部帯状回と偏桃体は連合野に属さないが、高次機能に深くかかわっている。

カラオケを歌うシーンを取り上げてみた。
見る行為:視覚野・・・カラオケ画面を見る。側頭連合野・・・歌詞を読む(理解)。頭頂連合野・・・歌詞の流れを追う。前頭連合野・・・歌う準備をする。
聴く行為:聴覚野・・・音を聞く。側頭連合野・・・音を聞き分ける。頭頂連合野・・・メロディの流れを聴く。前頭連合野・・・曲に聴き入る。
2本のブルーの矢印はそれぞれ視覚系と聴覚系の「選択的注意」を表す。
ピンクの矢印は言語中枢の関与を表す。

気持ちの動き:曲のイメージに合わせて情感を込めて歌いたい。(ここでは感情の動きであって、歌いたいと考えているわけではない。)
ブルーの矢印は「実行的注意」を表す。
ピンクの矢印は言語中枢の関与を表す。

大脳皮質連合野の働き(作業.jpg





唄う態勢に入る:(うまく歌えるだろうか、みんな聴いていてくれるだろうか)よし歌おう!
赤の矢印は運動野などの出力系システムに向かう。
なお、(うまく歌えるだろうか、みんな聴いていてくれるだろうか)は内言語である。
posted by 99 at 02:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 認知症
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