2013年01月22日

認知症について(4) ― おまけ ―

いくつかの、今後の参考にしたい処方例をここに残しておこうと思います。

(A)ガランタミン(レミニール)処方例
・Lewyの症例で、パーキンソン症候が主症状だったが、理解力低下が目立ってきてガランタミンを開始。ガランタミン16mgで幻覚・妄想・徘徊が出現したと思われる症例があった。(とりあえず、8mgに減量し、経過は良好)

・HDS-R 19点の混合型認知症の症例で2年間そのまま経過観察し、H24.7に気力低下やうつ気分が目立ってきたのでガランタミンを開始。表情が明るくなり、意欲的にリハビリに取り組む姿勢が見られるようになった。

・ADAS 16.0/70点のアルツハイマー型認知症例で、3年ほど前から物忘れが出てきてうつ状態が強くなった。会話をしていてもあまり認知機能の低下はなく、自信喪失に伴う虚無感が強かったのでSSRIとガランタミンを処方した。ガランタミン8rから何かをしようとする意欲がみられるようになったが、失敗が多いという。見守りや助言してあげる人がいないからだと家族に説明した。まだ途中経過である。

(B)リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロン)処方例
・DLB例で、リスパダールや抑肝散から開始。安定してからリバスタッチを追加。まだ日は浅いが現在のところ穏やかに生活している。
・2006年にすでに認知症と診断されドネペジルを処方されたが薬物過剰反応(発熱や意識障害)を起こしたとのことで当院を受診した症例。当初はDLBの知識も浅かったが、独断でドネペジルを1mgという少量投与で治療を開始して、徐々に増やしていった。経過は良好で、ドネペジル10mgになって2年間幻覚妄想などもなく経過したが、介護に抵抗が見られるようになって、ドネペジル5mgにメマンチンを追加した。メマンチン20mgを1ヶ月継続して再度、BPSDが悪化。リバスチグミンを8ヶ月継続中だが、良好。

・ドネペジル歴3年の症例。10mgを1年以上継続して嘔吐するようになり中止。現在、リバスチグミンで5ヶ月経過。

・Lewyの症例。ドネペジルを少量でいたが、症状の改善見られず、メマンチンを単独投与したところ、めまいが出現して中止した。現在リバスチグミンで、穏やかな経過。


(C)メマンチン(メマリー)処方例
・H18.12 HDS-R 17点、ドネペジルを5rで開始。H20.12 HDS-R 11点、ドネペジルを10rに増量。H22.6  HDS-R 6点。H24.9 意欲低下がみられメマンチンを追加(ドネペジルは5mgに落とす)。メマンチン開始の頃に1度だけ杖を振り上げることがあったが、その後は前よりも活気が出てきたようだ。

・H24.6 認知機能検査で意味性失語をみとめ、前頭側頭葉型脳萎縮を認めた症例で、それまで4年間服用していたドネペジル5rからメマンチン単独に変更した。家庭内で怒りっぽくなっていたのが、メマンチン15r位から穏やかになった。

・脳梗塞後遺症で失語症のある症例。認知機能改善が認められなかったのでドネペジルを開始。H22.6 パーキンソン様歩行を認めマドパーを追加。(幻視や妄想はない。)H23.5 ドネペジルを10rにした。1か月後くらいから意思表示がみられるようになり言動がスムーズになった。H24.2 食事をうまく口まで運べなくなった。箸がうまく使えないので食器を口に持っていこうとする。MRIでも脳の萎縮が進んできた。振戦はない。意欲低下と実行機能障害が進んだようだったので、ドネペジルを5rに落として、メマンチンを開始。以前のような状態に戻った。

・アルツハイマー型認知症の症例で、服薬や入浴・更衣などを拒否するようになり、H24.6 ドネペジル5rにメマンチンを追加。メマンチン15rから入浴するようになり、明るい表情で話すこともみられるようになった。ドネペジル増量はしていない。

・H23.4 HDS-R 12点、ドネペジルを開始。「トシだから物忘れは仕方がない」と笑っていたが、H24.1 夫や息子に対して易怒性がみられるようになりメマンチンを追加。穏やかになった。


症例報告ではありませんので、硬いことは言わずに軽く参考にして読んでいただけたら幸いです。
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認知症について(5) ― おまけのおまけ ―

昨年12月に、認知症治療に携わる実地医家として何でもいいから話してくれと頼まれまして、「師走の迷走」とふざけた題(迷想と迷走をかけました)で、内容もまた根も葉もないような話をしたのですが、実は僕としてはまんざら嘘でもない考えなのでここに載せておこうと思います。(その後も考えていることを少し補っておきます。)

迷想、その一

前頭側頭葉型認知症では、性格や社会性の障害が顕著に現れやすい一方、記憶や感覚、要素的行為は良好なので、初期には自信喪失している様子がよく見受けられます。
怒りという行動は、欲求が満たされない時の防衛反応の一つだととらえると、社会性が障害された状況下におかれた人の心に抑うつ性と怒りが同居しても不思議ではないと考えます。
うつ的気分を取り除き、怒りを鎮静化する努力を行った後に、認知機能改善の治療を加える方が良い結果が得られるのではないかと考えています。
そこで、前頭側頭葉型認知症では、いわゆる認知機能改善薬をファーストチョイスとする治療は考えずに、抗うつ薬(SSRI)や漢方薬などをファーストチョイスにしてみています。認知症だから認知機能改善薬を使わなければいけないというルールはないでしょう?


迷想、その二

DLB(レビー小体型認知症)の認知症症状の改善の適応をとった薬剤はまだありませんが、臨床の現場では様々な取組が行われています。
適応薬剤がないために、DLBと診断される症例の数は少ないかのように思われますが、実際にはAD(アルツハイマー型認知症)として疾患登録されている認知症の中に隠されており、その比率は20〜30%と僕はみています。(前頭側頭葉型認知症も同様にADの中に隠れていますがその比率はもう少し少ないだろうと思います。)
DLB症例には少量の認知機能改善剤がよい、と多くの臨床家が口をそろえておっしゃっていますが、本当にそうなのでしょうか?
そもそもDLB症状は非常に変化が激しいということは前述したとおりであり、周知の事実で、よく言われているように認知機能改善剤を所定量まで増やしていくと途中段階で症状の悪化を認める症例もあるのですが、所定量まで至ってさらに数か月間良好な効果がみられた症例もありました。それはどの薬だったのかと質問したくなるでしょう?それは…まだよくわかりません。新しい薬が揃ったばかりで、いろいろなデータを集めるにはまだ日も浅いので。
ただ、どの薬剤が合う合わないという以前に、いわゆる「さじ加減」が重要なのではないかという声が僕の頭の中で聞こえています。
変化の激しいDLBの症状を注意深く観察し、悪化の兆しが見えた時には時機を逸せず処方薬剤(認知機能改善剤)を減量の方向で検討する、あるいは一時休薬も考慮する。それはPDのOff 現象″時の対策に似ているかもしれません。

参考までに興味深いDLB症例を提示します。
長い経過を持つDLB症例:
2009年5月、某グループホームからの依頼を受けて往診を開始。すでにDLBと診断されて5年以上経過。
季節の変わり目にうつ症状のように、妄想や意欲低下が強くなる。
当初はグラマリール、抑肝散、エクセグラン散20% 0.25g 、ハルシオン0.25mg 1錠 、リスパダール1mg などで開始。
2010年1月、アリセプトを1mgで開始。
2010年6月、歩行障害が見られビ・シフロールをごく少量追加。
2011年6月、アリセプトを5mgに増量。
2011年9月に頭部MRIを行う機会がありこのときにプラビックスを開始、エクセグランは血中濃度が高値になっていたので中止した。
その後意欲低下食欲不振などが続く。
初診時から常に続いていた夜間の幻聴がひどくなり昨年3月には「『死になさい』と命令された」と言ってスタッフに「包丁を貸してください、だめならハサミでもいいです」と言い出したので、内服を変更した。
セロクエル錠25mg 、サインバルタカプセル20mg 、ビ・シフロール錠0.5mg、プラビックス錠75mg、リスパダール内用液0.5ml(1mg/ml)、リリカカプセル75mg、リバスタッチパッチ4.5mg、を処方。これで少しずつ精神的に穏やかになり、幻聴があってもパニックになることもなく3ヶ月経過した。
2012年9月、リリカを止めたせいか「パッチ剤は貼らなくてもいいという声が聴こえる」と言って拒否、入居者に対しても暴言を吐く行為が見られる様になった。
2012年10月、ジプレキサザイディスを2.5mgで投与して、一時的に穏やかになってもまた暴言を吐くので精神科を受診した。
(振り返ってみると、エクセグランもリリカも元は抗てんかん薬。これらを中止したことが悪化の誘因だったのかもしれない。)
リバスタッチは非常に良好な経過だった。この3年間の中で最も良い状態がみられ、折り紙の作品を笑顔で見せてくれたり、主治医に労いの言葉をかけてくれたりした。
現在、精神科の指示でレミニール8mg/日を服用中。16mgには増やさないで!との指示あり。


迷想、その三

リバスチグミンは、興奮タイプのBPSDがみられる症例に意外と有効なのかもしれないという感触を持っています。ドネペジルを服用していた症例で、進行して大声をあげたり、怒りだしたりするようになると以前はよく向精神薬などを使うこともありました。今でももちろんこうした薬のお世話になるケースは多いのですが、こういう時期にドネペジルを増量してもBPSDの改善はみられないことが多く、介護に抵抗するようになります。こんなときに、リバスチグミンに変更すると比較的高率に穏やかになってくれるように思います。貼り薬なので薬を拒否する症例にも使えるという理由だけではなく、薬効も期待できるように思うのです。難を言えば、皮膚掻痒や皮膚炎が高率にあるということですが。向精神薬の扱いは結構難しいので、これも参考にしていただけたらと思います。

最後に、これもやっぱり迷想だろうと思うのですが・・・

徘徊する人がいます、それも少なくない数で。
今のところ、今ある認知機能改善剤を使ってみても、これといえる薬に出会えません。そうかといって、向精神薬を使うと、仮に徘徊は治まったとしても、それ以外の「その人らしさ」を奪ってしまいかねません。
徘徊に対しては医療は無力のように思います。徘徊する人の、その行動から意味を汲み取りそれに沿うケアをする、それが正しい対応のように思います。とても忍耐と時間のいるケアですが、これこそが、介護や看護の原点として取り上げられる「ヒューマニティ」なのだと思います。


認知症について(1)から(5)まで・・・読み通してくださった方に深く感謝申し上げます。
過去およそ10年の認知症診療の中で、患者様やそのご家族、そして介護施設のスタッフやケアマネージャさんたちのお力をいただいて積み上げてきた内容をまとめてみました。
この中から正しいもの、間違ったものが少しずつ整理され、またいつか新たな総括をここに書き残す時が来るだろうと思います。
その時が…楽しみです。
posted by 99 at 00:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 認知症

2011年11月12日

認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(1)

タイトル:認知症に対するリハビリテーション

サブタイトル:認知神経科学的根拠に基づくアプローチ

※この記事は、平成26年末に加筆修正を行い、さらに内容を一部変更して、理学療法ジャーナル(医学書院)第49巻第4号(H27刊)に掲載されました。

http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1551200184


はじめに


認知症(老人も若年者も含めて)の人におこなわれる専門的なリハビリテーションとはどんなものなのか、すでに確立されたものがあるのかどうか、・・・実は筆者はよく知りません。医療の現場では積極的な認知症のリハビリテーションは行われていないし、福祉の現場では、それぞれの施設がユニークな取り組みを行っています。たとえば、回想法がよいとか、音楽療法がよいとか、いうように。
そうした努力の中で、高度の認知症の人にリハビリは必要ないという意見も見られる一方、「ぼけても心は生きている」と強調する意見もあります。
こんな手探り状態ではありますが、現場ではそれなりに効果が見られているようです。
では、認知症のリハビリを考えるとき、どのような考え方が必要なのでしょうか?何を根拠にどのようなリハビリを導入したらよいのでしょうか?
ここでは、認知神経科学の分野で分かってきた知見を基に、専門用語にこだわらずわかりやすく、独断と偏見を交えて考えてみることにします。
posted by 99 at 02:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 認知症